引き継ぐのは技能でなく技能を考案する発想法なのだ2008年05月22日 05時46分56秒

昨日は技術士会の講演「儲かる 知的財産権」というのを聴きに行ってきました。
講演者は発明協会北海道支部の堀川さんという方。
もう70過ぎていると言われていましたが、そうは見えなかったですね。

ものづくりは町工場のような家業から発展してきたんだけど、いまは家族がそれを引き継がないんですって。
そうすると技術・技能が途絶えてしまうので今はとても危ない状況だって言われていました。

講演のあと、一緒に参加した技術士の友人とその話をしたのですが、彼は
「考案した具体の技術の受け渡しも大事だけど、考案・発明したその発想方法を受け継がないとだめなんだろうね」
と言ってました。

全く同感です。
技術・技能を引き継ぐのではなくて、それを生み出す発想の方法を引き継がないと、その先にさらに進んでいけないですね。
技術を守るだけになってしまって、さらに新しいことを生み出せなくなる。

それは何も家業の町工場だけじゃないんですよね。
僕ら計画とか設計の技術者にも当てはまります。
そしてすでに僕ら建設コンサルタントの技術者って、実は考えて何かを生み出すという作業をしてないんです。

「何てことを言う!そんなことはない」って言う人もいるかもしれませんが、僕はそう思っています。
僕らコンサルの技術者はマニュアルとか基準とか、あとは事例を見つけてきて、それらをアレンジして、こんなのはどうでしょう?って提案することがとても多い。
この仕事のやり方は、新しいことを考案しているというのではなくて、ただの編集作業です。
人のやった過去の仕事を寄せ集めて、いいとこ取りして、さも自分が考えたことのように提案しているだけ。
頭を使っていないわけじゃないんだけど。

新しいことを考案するには、この編集作業の仕事から脱却しないとダメなんです。
人の仕事をあさって何かを見つけるという思考から抜け出さないといけない。
つまりはお勉強はほどほどにして、自分の頭でひねり出すという思考に切り替えないと、新しいことを発明・発案するってことはできないということです。

他人事のように書いていますが、僕ら中堅の技術者は、自分達が実務の最前線に立ちつつ、若い技術者達も育てていかないといけない立場です。
じゃあどのように育てるか。

自分で考える習慣づけでしょうね。
マニュアルや基準も大事なんだけど、これは仕事の中で必要とする場面がたくさんやってくるので、意識しないでもきちんと教えるんです。
それよりは自分の頭で工夫なり新しいことなりを考案する発想を意識して伝えないといけない。

そしてひとつ僕らが気をつけないといけないことがあって、若い人に何かを考えろと突き放したあと、その若い人が何かを持ってきたとき、「そんなの過去に誰かが考えたことだよ」って言ったらダメ。
結果として新しくないものでも、それは喜んで、ほめて受け取る。
自分の頭で新しいと思うことを考えついたことが大事だから。

考えるということを育てるためには、それは30年前に誰かが考えたことだよと指摘するのではなく、その古くて新しいアイデアをいかにカタチにするかを一緒に考えるべき。
そのさらに10年後に、実はあの時のあなたのアイデアは30年前に誰かが言ってたことと同じだったんだよとばらしてもいいんです。
彼にとっては10年間は新しいことを考えついた喜びに浸れるわけで、そのうちに考えることが習慣化するでしょうから。

「儲かる 知的財産権」という講演からこんなことを考えるとは思っていなかったのですが、僕にとって講演を聴くのはこうやって考える機会を得るためでもあります。
いい時間を過ごしました。