専門家が専門知識を市民にわかりやすく伝える大切さ2008年02月14日 06時04分43秒

先日、ある魚の愛好家の団体の方からメールで問い合わせを頂きました。

その団体がある川でヤマメという魚を放流しているのだけど、その川に工場から温水が排水されている場所があり、どうもその上流では魚の生息状況が悪いことがわかったと。
それで役所に問い合わせたけれども、特に問題はないのではという回答をもらったのだけど、自分としては関係がありそうな気がするので、専門家としてわかることを教えてほしいという依頼でした。

工場の温水排水場所の上流側で魚が減少しているかもしれないということは、そのヤマメという魚は水温の影響をとても受けやすいことから考えると、因果関係がありそうと想像がつきます。
そして、それについて役所に調査の依頼をされたけれど、役所は特に問題はないと判断していて調査の予定もないと返事をしたようです。
ここで何となく役所に対して不信感を漠然と感じられたようです。

ただ僕はたとえ役所が正式な調査を行ったとしても因果関係を示すのは非常に難しいんじゃないかなと思いました。

役所が調査費を使って調査をしても、魚の分布データ、水温・水質データが揃うだけということになり、関係を断定するまでには至らないでしょう(推測なら言えますが)。
研究者が乗り出したとしても、それはもしかしたら同じかもしれない。

なぜなら、魚の生息状況は水温・水質だけでなく、水量、深みの有る無し、川底の石の大きさなど、ほかの様々な影響を受けるからです。
これらの要因より工場排水の影響が大きいということを調査で示せるかというと、それは難しいかもしれない。

さらに、調査するにも役所は金がかかる(役所は財政難)、工場の企業側も水温を低下させるための施設をつくるには金がかかる、そして現状では飲料水への影響など住民生活への悪影響がないとなれば、実際は両者とも動けないでしょう。
調査程度でも実際は金がかかりますので。

役所や企業は、おそらくある特定の団体からの要望では、費用を使っての調査や対策には動きづらいでしょう。
役所や企業を動かすには、団体だけからの要望というよりは、町内会など地域を巻き込んだ、地域全体からの要望というカタチに持って行くのがいいのではないかと思います。

私自身が現地を見ていないのでこの程度のことしか言えなかったのですが、こういう地域で活動されていて、問題意識を持たれている人には、僕はできるだけ協力したいと思っています。
(ちょっと優等生的できれい事に聞こえるかもしれませんが)

専門家として得た知識を仕事のなかだけで使うだけではもったいない。
専門知識って、ふつうの人は理解したくてもなかなかとっつきにくくて理解しづらいので、興味・関心を持っていても難しそうだと思ったらそこで諦めてしまうことが多いと思います。

特に僕は川のことを専門にしていて、川は一般の人にも身近で関心を持っている人も多い分野です。
そして河川改修なんかで役所と住民、市民団体がぶつかる場面もよくあります。
そんな時、住民や市民団体の方が、ちょっと勉強して身につけた部分的な知識で考えを主張し続けるような光景を目にすることがあります。
でもかじった知識だと主張の論拠が偏りがちになるので、やがて議論がかみあわなくなります。

問題意識を持って、自力で勉強されたのだと思いますので、それだけに知識が部分的で終わるのはもったいない。
そこに専門家のアドバイスがあれば主張の視点が広がるかもしれません。

そんな市民に向き合う役所にしても、市民が部分的な知識で主張をもって来られるより、きっちり身につけた知識をもとにした考えを持って来てくれたほうが、本質の議論をしやすくなって、解決の方向を探りやすくなります。
これはデメリットではなくメリットでしょう。

専門家が、身につけた専門知識を目の前の業務だけに使うのはやはりもったいない。
僕自身、ひとりの専門家として、専門知識を、それを求める一般の人達にも提供して、その人達の理解を深められるような役割もしていきたいと思います。