ホタルの相談の話から移入種と科学の話まで2008年04月17日 06時37分54秒

昨日、ある役所の方から電話をもらいました。
今年度の調査の相談です。

そこの事務所ではずっとホタルの調査をされていて、当社もずっと関わらせてもらっています。
ここのホタルの調査でホタルのことをずいぶんたくさん知りました。

・ゲンジボタル、ヘイケボタルのうち、北海道に自然に生息しているのはヘイケボタル
・ホタルの幼虫は水の中にいる
・その幼虫のエサはカワニナとよく言われるけど、それはゲンジボタルのことでヘイケボタルはモノアラガイという小さな巻き貝だと言われている
・だけどモノアラガイでなくても、水の中にいる小さなものを何でも食べてそうだ
・幼虫は水の中にいて、春から夏にかけて陸に上がって土の中で蛹(さなぎ)になる
・だから水際に蛹になりやすい粘着質の土があるかどうかが意外と重要

このほかにも現地を見ているといろんなことがわかりました。
ホタルは水がきれいなところにすむと言われるのは、おそらく本州のゲンジボタルのことで、それはたぶんホタルがきれいな水を好むというより、ゲンジボタルの幼虫が食べる(と言われる)カワニナが、そういうきれいな水のところにいるからでしょう。
ヘイケボタルの場合は、道内の生息場所をいくつか見たら、ほとんどがちょっとした道路側溝とか水があまり流れない用水路で、およそ「清流」とはかけ離れたところにいます。
たぶん幼虫が雑食でエサにあまり左右されないせいだと思います。
こんなことは図鑑や本を見てもあまり書いていないんですけどね。
やはり教科書だけでなく現地をたくさん見ないといけないなぁと実感します。


ところで、住民が自分達の地域の川をきれいにしてホタルがすめるようにしようと取り組んでいるところが各地にあります。
実際の行動までいかなくても、改修や清掃で川がきれいになったら、次に生き物がすめるように、そしてホタルが飛び交うようになったらいいなと思い始める人も多いようです。

そして行動としてはカワニナをどこかから買ってきて川にばらまいて、次は幼虫を調達して川に放すということになります。
実際にやりたくなる人がいて、そしてやってしまう人もいます。
地域の子ども達に自然らしい川を見せたいという親心が働くせいかもしれません。

さて僕は何が言いたいのか?

実はこれがけしからんと言いたいのではありません。
どこかほかの地域の生物を別の場所に持ってきて生息させることは、今どきは御法度だという考え方が主流です。
移入種という言葉もあります。
同じ種でも生息している地域が違うと遺伝子も違って「遺伝子かく乱」という問題が生じるとまで言われます。

もちろん「遺伝子かく乱」なんてどうでもいいとは言いません。
北海道に本州とか九州のホタルを運んできて生息させると言われたら、そりゃあ「やめとけ」って言うでしょうね。

でもせめて道内くらいなら大目に見てもいいんじゃないかと思うんですよ。
「遺伝子かく乱」なんて難しいこと言わずに。

ホタルの話に限ると、地域のおじさんが地域の子ども達のためにホタルを飛ばせたいという気持ちでやるのなら、移入種がどうの遺伝子がどうのというのはある程度は目をつぶってもいいんじゃないかと。

たぶんちょっと前まではこんな移植・移動での繁殖にそんなに厳密ではなかったような気がします。
遺伝子かく乱の問題にしても、自然科学の研究が進むことで指摘されるようになったことでしょう。

科学からの指摘ってもっともらしいし、反論しにくい。
科学に対して、このようなホタルを戻したいという「思い」、○○したいという「考え方」だけのアプローチはどうも分が悪い。
科学って、それが正解って無意識に享受するところがありますから。

だけど、科学はいろんな現象を明らかにした成果であって、科学の成果をどのように受け止めて、自然や人間生活にフィードバックさせていくかは、人の考え方次第ですよね。
もちろん科学の成果が、環境を含めた地球上のいろんなことの後退にブレーキをかけて、改善に向かわせるという拠り所になるので、大いに進展してほしいとは思います。

それでも、ある面では、科学が必要以上に足かせになるときもあるような気がします。
知りすぎたことによる呪縛って言うんですかね。
必要以上に考え方が凝り固まってしまう。
科学が世の中のミスリードをもたらすことだってありますから、ホントは科学も絶対ではないんですよね。


ホタルの話からちょっと大きなテーマになってしまった。
あ、ホタルの話は全部仮定の話です。
「ホタルを放流したい」という話をたびたび耳にするので、そんな場面に関わったとしたら自分はどんなスタンスをとるのかということをずっと思考訓練のように考えてきただけですので。

コメント

_ kumagera ― 2009年10月28日 07時45分09秒

長野県辰野町松尾峡は古くからホタルの名所として有名です。

しかし1960年代に,主として観光目的で,地元産ゲンジを補うために,膨大な数のゲンジ幼虫や卵が,他県業者などからの購入や譲渡によって,放流されました。それによって,今のゲンジ集団の基礎が築かれました。

しかし移入ゲンジと地元産ゲンジは,遺伝的系統も発光周期も異なっています。

最近の研究によって,松尾峡では他県産ゲンジが地元ゲンジを圧倒し,地元産ゲンジは増えるどころか,壊滅的な打撃を受けたことが明らかとなりました。この影響は、放流が無かった下流地域まで及んでいます。つまり、地元産ゲンジが子孫を残しにくくなっているのです。
遺伝子かく乱と言うと難解ですが、移入が地元産が追い出す状態さえ生むのです。

しかし,この地を管理しホタル祭を実施している町役場は,この移入の歴史を伏せていて,ホームページやパンフレットでは地元産ゲンジを増やしてきたかのように述べています。大学卒論で、ホタルによる町おこしを取材した学生にさえ真実を語っていません。

また,ホタル保護と銘打っていても,松尾峡では移入ゲンジを増やしているだけで,観光に役立たないヘイケの生息地は破壊され,荒地やゲンジ観光用駐車場となっています。

私たちホタル研究者は,このような観光優先の移入ゲンジ養殖政策を改めるように申し入れていますが,全く無視されています。

>でもせめて道内くらいなら大目に見てもいいんじゃないかと思うんですよ。

全国ホタル研究会(HPあり)の移入の指針、あるいは多くの研究者も、移入はまったくダメとは言ってないのです。

ただ、上記の辰野町のように、観光や町おこしに役立てようと、数さえ増えれば、どこから移入しようと、地元産が残らなくても、ヘイケのみの生息地をつぶしても、それでも良いというような考えに反対しているのです。

ホタル研究者は、Taro氏が思うほど、石頭で科学、科学と言ってるばかりではありません。

調査結果から、地元ゲンジが追いやられている、他種(ヘイケなど)が結果的に殺されている、そんなデータが出て、悲しい思いを抱いている場合も結構あるのです。

科学的考察に感情移入は禁物、という偉い先生方もいます。確かに、論文を書いたりするときは、感情を抑え客観的になろうとします。

しかし野外に出て、ゲンジ優先で荒らされたヘイケ生息地を見たり、発光周期さえ違う地元ホタルが減っているのを目撃すると心が痛むのです。

しかも、これが人為的に起きていて、ホタル見物に来る人々は知らないでいる。そんな状態は無くしたいと思っているのです。

だから、辰野の場合も、住民、研究者、観光客なども含めて、どのようなホタル保護がいいか話し合いましょう、と提案しているのです。しかし、町役場は、そのような提案さえ、この問題(移入や養殖の歴史、その影響)を、あまり一般に知らせないでほしいなどと言っているんです。

こんな形でホタル移入問題も起きていることを理解してほしいと思います。

詳しくは、kumageraのブログを見て下さい。

_ Taro ― 2009年10月28日 18時52分56秒

だいぶ前に書いたホタルについての文章にコメントを頂きました。
ありがとうございました。
熱心に活動・研究されている方には頭が下がります。

ホタルについては他地域からの移入(持ち込み)がやはり問題になるようです。
ホタルに限らずなんでしょうが。

移入の問題では、明らかな海外からの持ち込みはダメとわかりやすいですが、国内だけど他地域となると賛否が分かれますね。
基本の考えは「地元の種の生息を妨げない」とみんな一致してるんでしょうけど。
「地元」を同じ県内くらいでみるのか、○○地区くらいのほんとのスポットエリアでみるのかでまた賛否が変わってくる。

現実的には、その生物の行動範囲(ホタルなら飛翔能力かな)から自然に広がるくらいの範囲を「地元グループ」とくくる程度がいいのかなとも思うけど、それはそれで一つの考え方ですから。

研究の成果を活用しつつ、地域であるべき姿を地域で議論するところから始めるのが健全な姿かなと思います。

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