その川にあった川づくりって何だろうか2008年09月18日 23時20分24秒

先日、NHKの「プロフェッショナル」で内視鏡検査の達人が出ていた回の録画を見ていたのだけど、その人が最後に、患者の症状に一番適した治療法を考えるのが自分の役割だということを言われていて、いまさらながらそうだよなぁって感心した。
同じ症状でも、患者によってその状態が微妙に違い、しかも気持ちの状態も違うから、その患者のその時の状態にあった治療は、マニュアル通りに決めていいというものではない。

で、考えてみれば、河川改修も同じことで、いろんな川の改修方法を考えるときに、どこにも同じような方法を当てはめていいかどうかというとそうではなくて、「その川の性質に合わせた方法を考えよ」と口では言われるのだけど、だったら「その川の性質に合わせた」というのは具体的にどんなことを考えればいいのだろうかという、そもそも論を考え始めてしまった。

・その川の流出特性(降った雨がどれくらい出てくるのか)
・どれくらいの土砂が出てくるのか(たまりやすいか、掘れやすいか)
・周りで人がどのように生活しているか
・その川の地域での位置づけは?
  例えば農業の水源にすぎないとか、カヌーやラフティングとか
・どんな生き物がすんでいるのか

本来はこんなことを全て真剣に考えて、その川にあった改修計画ができるはずなんだろう。
だけど、実際はだいたいの線形(川の位置と言うとわかりやすいか)を決めて、流量に見合った複断面の定規断面を当てはめたベースをつくって、そこから小手先のパーツ修正になるというのが現実だろうか。

例えば同じ規模の流量が出てくるとしても、どのくらい土砂が含まれるかは川によって違うはずで、土砂がたまってそこに樹木が生えてくるとしても、そのスピードも川によって違うはず。

札幌で言う豊平川のような、街中を流れて河川敷を人が行き交うような川と、地方の田園地帯で河川敷があってもシカとキツネしかいないようなところとでは、人が川に求めるものは自ずと変わってくるだろう。

そんな違いがあっても、実際はおんなじような断面形状を流量規模に応じてアレンジして当てはめた、いわば金太郎飴のような改修計画がつくられているのが現状だ。

実は河川整備計画を策定するときには、前段で、流域の人口や産業、地質、過去の洪水、自然環境、イベント利用などを網羅的に整理する。
その上で、将来の整備方針を考えていくのだけど、実際に計画断面を考えるときに流域特性や自然環境にあったカタチを考えようと知恵を絞ることがあるかというと、あやしい。
だって、流域の人口や産業がどんなだと断面形状をどうすべきと、どうリンクさせていいのか誰もわからないからだ。

例えば先の例での豊平川のようにたくさんの市民がやってくるような川では河川敷が利用できるような複断面形状も意味があるような気がするけど、シカとキツネしかいないようなところで、きちっとした複断面が必要かというと実は疑問で、そんなところでは複断面でなく、平べったい単断面でもいいのではという議論をしてもいいはずだ。
そこでやっと背後地の土地利用や住民の河川利用と、改修の断面形状の考え方がリンクすることになるのだ。

長々と書いたけれども、何が言いたかったかと言うと、「その川にあった川づくり」と美しい標語を立てるのは簡単だし、ぜひそうすべきと思うけれども、本当は河川の技術者の個人個人がもっと真剣になって、その川の特性を見抜く力を身につけてその川に必要な設計思想を考え抜かないと、優秀な医者のように患者それぞれに最適な治療法をひとつひとつ考えるというプロの技にいつまで経っても追いつかないのではないかという危機感を感じたと言うことなのだ。

偉そうに書いたけれども、誰に押しつけるというわけでなく、自戒を込めて、この先の自分の目標にするということだ。
まだまだ修行だ。