新聞記事:「津波3m」独り歩き2011年04月23日 11時15分13秒

先の大震災時、津波を住民に知らせる防災行政無線の内容が自治体ごとに違っていて、どうやらそれが被害規模の明暗を分けたかもしれないという記事が朝日新聞にあった(2011.4.20夕刊)。

岩手県釜石市では、気象庁が地震発生後に岩手県に高さ3mの津波が来ると予測したのを受けて、
「高いところで3m程度の津波が予想されます。・・・」
と無線で市民に伝えた。
無線の内容はこのあと、近くの高台か避難場所に避難するよう指示するとも続けていたそうだが。
そして、この内容の無線を6回繰り返した。
が、この間に気象庁は津波予測を6m、10m以上と切り替えていた。
その更新情報を市は停電で受け取れず、もとの3mという数値が市民に繰り返し伝えられたということだそうだ。

そして、市民は「津波は3m」と思い込んで2階に避難すれば大丈夫と思った人も多かったそうで、実際「もっと高い津波と知っていたら山に逃げた」と言ってる人もいるとのこと。

その一方で、隣の大船渡市は最初から津波の高さを言わず、高台への避難のみを呼びかけたという。
「津波は湾によって高さに差が出るので、誤解を与えないようにしている」
というのが市の防災課の方のコメント。
そして、犠牲者は周りの自治体と較べて少ない結果となっているようだ。

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大震災のときの誰の行動が良かったとか悪かったとかを書こうと思ったのではなく、自分の仕事のやり方として考えたことがあったので書きます。
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例えばね、僕の日常の仕事で言うと、川の計画で何かの計算をしたとき、何らかの数値の結果が出るとするよね。
で、それをやった人は、その数値ありきで説明したがるんだよね。
計算ではこうなりますってね。
でも、ホントにそんな数値になるのか?
現実はそうじゃないんじゃないか?
別の条件入れたら別の数値が出て、その方が現実的ということもあるんじゃないか?
調査でも計算でも、出てきた数値はそれはそれとして、その数値をどう受け取ってどう解釈するかは技術者の判断ごとなんだよな。

でも判断ごとを入れると、それを提案するときに説明に苦労することが多いんだ。
「そう判断できる理由は何ですか?」
ってね。
全く根拠がないことはまずいけど、経験で大まかに見えることも多いんだよ。
それを説明しきれないからと言って、感じた違和感とか突き進む危険さとかを黙って隠してしまう方が危険なんだよね。

だからね、計算にしても調査にしても、出てきた数値をそのまま受け入れるのではなくて、それをどう使うかを当事者が一旦考えないといけないんだ。

数字の話だけじゃなくてね。
先日もあったんだけど、一生懸命検討ごとをして資料をつくって、いざ打ち合わせってなったとき、それを全部説明しようとするんだよね。
でも、緻密な資料は大事なんだけど、必ずしもそれを正確に全部説明する必要はないんだ。
まずは何を知ってもらいたいかを選ぶ。
もしかしたら、相手の立場によっては、それだけを知ってもらうだけでいいかもしれない。
知りすぎて混乱するってこともあるし。

つまりは、根拠はより正確に、でも伝え方はおおざっぱに。
場面によってだけどね。
それを考えるのが経験者・年長者の役割だよね。


もちろん、記事にあった釜石市や大船渡市も、記事の内容だけ切り取ったら対照的だっただけで、記事に隠れたもっといろんなことがあったとは思う。
どっちがしっかり考えててどっちは考えてなかったという白黒でもないかもしれない。

ただ、こういう結果として対照的な例が教訓として出てくることで、それを技術者としてどう活かしていくかを考える機会になる。