中村理聖、奥田英朗、重松清、荻原浩、乾緑郎、堂場瞬一、倉狩聡2017年11月05日 07時23分52秒

『小説すばる』より
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月と弁当箱 中村理聖
妻が陰気になった。
自分は転職した不動産会社を合わないと辞めた。
それをまだ聞いてない妻は弁当をつくって自分に渡す。
でも陰気さにあたるように罵倒するような言葉を妻にぶつける。
自分が弱くなったときに身近な相手に当たる心の動きが切ない。
なぜか残したくなる物語。◎

うつわの記憶 中村理聖
母の通夜で母のかつての愛人と再会する。
だらしなかった母、自分の思い出したくない記憶がよみがえる。
この人いい人の印象だったのだが。
こういう男もいるのだろう。○

砂漠の青がとける夜 中村理聖
父親が死んだあと、両親が開いていた京都のカフェを姉が引き継ぎ、妹の自分も手伝うようになった。
東京で編集者として働いていたころに知り合った20歳上の男性から「愛してる」とメールが頻繁に届く。
いまいち何を伝えたいのかわからず。△

妻と選挙 奥田英朗
自分は文学賞受賞作家、ただし最近は書くものあまりぱっとせず。
その妻が周りからの推薦で市議会議員選挙に出ると言い出す。
距離をおきながら見守るも、頑張る妻の姿で自分の気が動く。
この夫のペースがよくて○。

アンナの十二月 奥田英朗
高校生の女の子アンナ、幼いときに母が再婚し実の父親を知らない。
母親に聞き、その実の父親に会いに行くことにする。
友達は捨てたもんじゃない。○

虫歯とピアニスト 奥田英朗
30すぎの女性、自分が勤める歯科医にファンのピアニストがやってきた。
ファンだと明かさずやりとりを楽しむ。
それだけのお話と言っていいのか。でも○

旧友再会 重松清
新幹線の駅はあるが地方都市、ここで父親からのタクシー会社を営む男性。
駅で乗せたのは小学校の同級生、でもあまり良い思い出はない。
そこそこの年齢になると抱えているものは人それぞれ。○

残照 重松清
自動車メーカーに勤めていた父が亡くなった。
地元新聞に広告を出すかどうかで叔父ともめる。
その新聞社の名前を聞くと父に関するあることを思い出す。
世の中、誰もやりたくないが誰かがやらなければならない仕事あり。○

赤いろうそくとオオカミ少年 重松清
嘘つき癖、ものを盗む癖もある少年、幼稚園のときに両親を事故でなくしておばあちゃんに育てられている。あるとき女の子のお金がなくなったことの疑いをかけられる。
子供もいろいろ事情あり。○

時のない時計 荻原浩
父が亡くなり自分が形見にもらったのが父の古い腕時計。
しかも止まっている。
捨てるわけにもいかず、街の時計屋さんに修理に持っていくと、壁時計に囲まれた店にいかにも職人風の愛想のないじいさんが仕事をしている。
かかっている時計にじいさんの思い出が重なっている。
時計の修理の人のドキュメントを見たとき、よくこんな仕事ができるもんだと思った覚えがある。
情景がなんとなくよくて○。

ノートリアス・オールドマン 乾緑郎
団地の自治会副会長さんのシリーズ。
高齢者のためのイベントを企画して説明して回ると、あるサングラスに金髪、電動車いすの男性老人にすごまれる。
この老人あてだと思われる美術展の招待状が海外から届く。
外人もからんで意外な展開も、いまいちついていけない感じ。△

裏倉庫のヨセフ 乾緑郎
これは副会長さんはあまり表にでない。
「サンタフェの奇跡」という螺旋階段のことを書きたかったのかな。
知らないことを知れて○。

政の秋 堂場瞬一
政治の業界紙の記者、大手IT企業が政治家に金をばらまいているという情報をつかむ。
自身はかつて誤情報で記事を書き失敗して挽回が必要。
政界のごたごた、あまり興味湧く内容でなし。△

にのうで枕 倉狩聡
自分の彼氏、大食いで体重がもうすぐ3桁。
お気に入りは腕枕、心地良い。
が、職場に入った年上の後輩の女性にやきもち。○

「山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた」2017年10月30日 14時52分55秒

山中先生が生い立ちを語った本。
臨床の医師から研究への道に路線変更して、試行錯誤の中でいまにたどり着いたことがよくわかる。
どこで自分を活かせるか、そのためにいま何をやらないといけないかを考えて、そこでやるべきことを実行されている。
アメリカ出張中にアメリカの研究者が研究に成功したと聞いて、帰りの飛行機で論文を書き上げて投稿して競争に勝ったというくだり、いまでも電車の中で英語の勉強をしているというところ、自分の気持を奮い立たせるには十分すぎる。
すばらしい。
山中ファンだ。

久米宏です。ニュースステーションはザ・ベストテンだった2017年10月30日 12時55分17秒

自分らの世代は久米宏さんの影響を多かれ少なかれ受けているのではないか。
僕は小学生の頃はザ・ベストテンに夢中になり、その後、夜の10時からはニュースステーションでその日の出来事を知るという生活だった。

ということを思い出す感じかなと思って買ってみたけど、そんな本ではなかった。
久米宏さんがまだ駆け出しの頃にどれくらい考えて努力して走り回ったかがわかった。
もともとの才能だけではない努力で上に立つという姿。
まだまだ頑張らなきゃと心奮い立つ素晴らしい本。

奥田英朗、北方謙三、辻村深月、須賀しのぶ、荻原浩、山本兼一2017年10月30日 12時54分29秒

家日和 奥田英朗
短編集。
処分に困ったピクニック用テーブルをふとネットオークションに出して売れたのをきっかけに家にあるものを売る衝動を抑えられなくなった主婦、勤め先が倒産して主夫をやりだして、もと同僚が新しいを仕事を誘ってくれてもむしろ主夫のほうがいいかなと思うようになった男性、奥さんが出ていって残されたマンションを自分の好きなようにオーディオルームとして充実させ始めた男性など。
何に共感とかないけど、ありそうな光景が面白い。
ちなみに「人間到る処青山あり」は初めて知った。○

抱影 北方謙三
世間から離れたところで生きる画家、その絵に惚れた画商、画家志望の女性。
北方ワールド。○

島はぼくらと 辻村深月
瀬戸内海の島に住む高校生男女4人、そこに東京から脚本作家が幻の脚本とやらを探しにやってくる。
終盤、女の子どうし、相手を慕うとこがいい。○

雲は湧き、光あふれて 須賀しのぶ
高校野球の公立校の強豪、超高校級のスラッガーがいるが、自分はその彼のわけあり専属代走。
で、この本、意外に短編集だった。
二つ目の女性記者さんのお話がいい。○

月の上の観覧車 荻原浩
これも短編集。
自分の過去を何かに重ねて振り返るお話が多い。
何かの拍子に自分の過去が頭に浮かんでくることがある。
そんな感じか。
日常は意外と普通の日常として流れていく気もするけど。
表題作は父親の事業を引き継いでやってきた高齢経営者が観覧車で振り返るお話。
人生いろいろ。○

火天の城 山本兼一
初めて読む作家さん、同僚の勧めで借りて読む。
信長が勢いあるときに安土城を築くときの職人たちのお話。
ものづくりに魂を注ぐ話は面白い。
自分の仕事と重ねるところもあり○。

松岡圭祐、東山彰良、藤岡陽子、本城雅人、秦建日子、眉村卓2017年10月14日 19時42分38秒

八月十五日に吹く風 松岡圭祐
太平洋戦争当時、アリューシャン列島を占領してた日本軍がアメリカ軍から攻撃を受け、兵士たちは投降ではなく玉砕の司令を受ける。
それを海軍のある司令官は人の命が最も大事と、しかも奇跡に頼る精神論ではなく気象の分析に基づいた救出作戦を立てる。
太平洋戦争の物語ではアジアの出来事が多い気がするが、この地域でこんな戦いがあったことは、歴史で習ったかもしれないけど知らなかった。
記録小説の側面だけでなく人物も魅力的で◎、素晴らしい。

流(りゅう) 東山彰良
1970年代の台湾、高校生の主人公が破天荒に生きる。
時代の破茶目茶さ、勢いが面白い。
梁石日風のスピード感で、文章の雑さがやや気になるけど面白さの勢いが上回る。
時代を感じられて○。

トライアウト 藤岡陽子
シングルマザーの新聞記者、スポーツの部署に異動になり、何もわからずにプロ野球のトライアウトの取材に行き、かつては甲子園をわかせたエースという選手に会う。
もうちょっと深さに期待したけど○。

LIFE 本城雅人
かつて高校の名門サッカー部で一緒だった3人が、卒業後にプロ選手、警察官、闇商売とそれぞれの立場で絡み合う。
スポーツが始まりの小説の割に爽やかさはないけど○。

ザーッと降って、からりと晴れて 秦建日子
50代なかばのサラリーマン、早期退職を勧められるも家族とローンを抱えて決めきれず、兄に相談に向かうときに、離婚相談に向かうとおぼしき女性と出会う。
短編の登場人物がつながるお話。
それぞれはありそうな話でつながりもよく○。

終幕のゆくえ 眉村卓
短編集、それぞれ高齢の人が主人公で、高齢なりの出来事考えごとのお話。
面白いけど心が共感していない感じになるのは、自分がその年代になっていないからか。
読みようによっては面白いのだと思うけど△。